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『K』建築研究所 住宅相談所
高須賀壽さん

民家の壁に描かれる鏝絵文化を、次世代へ守り伝える

左官職人が漆喰で立体的に描く鏝絵

鏝(こて)絵とは、家の妻壁や戸袋などに、鏝を使って漆喰で立体的に描き出した絵です。江戸末期から明治期に静岡県の入江長八という左官を中心に、全国に広まったもので、西条市では、楠河(くすかわ)、庄内(しょうない)、吉岡(よしおか)の3地区に集中して残っています。

「鏝絵は、雪の多い地方の職人たちが都会へ出稼ぎに行き、見聞きしたものを地元に持ち帰った文化だといわれています」

そう話すのは、西条市の鏝絵調査・保存に携わる高須賀壽(ひさし)さんです。平成17年には東予高校と松山工業高校建築科の生徒とともに、傷みが進む鏝絵を取り外し、適切に保存することに取り組みました。現在、その鏝絵は「西条市立東予郷土館」で展示され、一般公開されています。

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現在でも鏝絵が残る街並が現存する西条

現在でも楠河、庄内、吉岡などの地区では、民家の壁に残っている鏝絵を見ることができます。しかし、築100年を超える昔ながらの日本家屋は、維持・管理にも費用がかかり、住み続けていくには大変な手間や労力が必要。時代の流れで、建て替えが進んでいくのは逆らえないことです。

「鏝絵は壁に付いている状態が本来の姿ですから、実際に使われながら保存されるというのが一番理想なのですが、家自体の老朽化が進むとそういうわけにもいきません。現在は、鏝絵の剥離やひび割れが進行していないかなどの調査を、春と夏に行っています。鏝絵のついた民家の取り壊しについては、持ち主の協力を得て、鏝絵だけでも取り外して保存するという方向でお願いする活動を続けています」(高須賀さん)

鏝絵が残る町並の保存、取り外した鏝絵を活用する方法など、西条の鏝絵を守り、伝えていくための知恵は、引き続き求められています。

素朴でユニーク。地域で親しまれる西条の鏝絵

鏝絵にはフレスコ画のように漆喰が乾かないうちに着色する方法と、あらかじめ漆喰に顔料を練り込んで塗っていく方法があります。前者は陰影や濃淡の表現が可能で、芸術的要素が高くなりますが、色落ちしやすく、屋内装飾品としてつくられることが多くなります。西条の鏝絵は後者のタイプが多く、絵画的には単調になりますが、素朴で力強く、ユニークさがあり、色落ちしにくく丈夫です。

「鏝絵には、干支、七福神、富士山など縁起のいい絵柄が描かれました。西条のように、漆喰に顔料を混ぜ込んで描くタイプは、絵にデフォルメされた面白さがあります。おそらく鏝絵は地元の人々にとってシンボル的なものだったのでしょう。親や祖父母が孫と散歩しながら鏝絵を眺め、『龍は水神さまの遣いだから、家が火事にならないように守っている。いつも龍が見ているから火遊びしてはいかんよ』などと、生活習慣や道徳的なことを教えたのではないかなと想像します」(高須賀さん)

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鏝絵づくりに取り組む職人さんの技術を活かす

高須賀さんによれば、愛媛県内や西条市で活躍する左官職人の中には、現在でも鏝絵を描くことに取り組む人もいるといいます。
「職人たちの間では、左官の技術が失われないように、さまざまな努力がされています。鏝絵を創作している人もいるし、瓦と漆喰を使い装飾品を創作したり、コンテストを実施しているところもあります。しかし、実際の建築現場では、ほとんど需要がないのが現状です」(高須賀さん)

新しい建物に鏝絵を描くなど、職人さんの技術を活かす場をつくり出すことも、伝統と技術を未来へ継承する一助になります。地域の文化を次の世代に残していくために、鏝絵に新たな命を吹き込む、時代に合ったアイデアが必要とされているのです。

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西条市立東予郷土館
愛媛県西条市周布427
☎ 0898-65-4797